9月29日。



六角中3年、黒羽春風生誕記念日。



この日は、朝から彼の仲間たちの様子がおかしかった。







(今年はどんなこと企んでんだろうなー)







その理由には見当がついているけれど。













彼とその仲間たちの所属する六角中テニス部は千葉の古豪として名高い。

そして、それと同時に部員同士の仲の良さも広く知られていた。

幼い頃より交流を持ち、共に切磋琢磨することから生まれる親愛の情。

それらが根幹を成し、彼らの関係は成り立っている。





だがそれは同時に遠慮という二文字を切り捨てる刃となり、

彼らは毎年、日頃のささいな恨みすらも一緒くたに込められた情け容赦のない祝辞と破壊力抜群のプレゼントにさらされるはめになるのだ。





他者の時はいかに本人を出し抜き、驚かせるかに知恵を絞り



自らの時には仕掛けられた罠を見破り、それをかわしていくことに神経をそそぐ。















そんな、楽しいようでいてどこか少し怖い、スリル満点の1日がまた巡って来た。









そういったわけで、本日誕生日の彼は朝練時から警戒を怠っていない。



今のところはまだ誰も行動に移してこないようだけれども。



(…まぁ、この調子じゃやろうにもなかなか出来ないだろうけどよ)



明るくさわやかで人当たりがいいうえに優しい男前の彼は、男女を問わずもてる。



そのため、この日の登校中(朝練のために時間は相当早かった)や休み時間には絶えず人に囲まれていたし、ロッカーや靴箱からも色々な物が溢れていた。



気持ちは確かにありがたい。



だが、それもあまりに多すぎて気の休まる暇がないほどの数となれば、憂鬱にもなるだろう。



ふぅ…



誕生日なんて早く終わらないものかと、溜息をひとつ落とした。















そして、仲間たちからは何のアクションも起こらないまま迎えた放課後。



彼は部活へ向かう道中、またしても人々に囲まれていた。





「おう、サンキュ!」





「マジでいいのかよ!?何か悪いなυ」





「お、ありがとな!大事に使わせてもらうぜ」





「…落とし穴…?しかも誰か一回落ちてやがるυ」





「あ、オジィ!外で寝るなっていつも言ってるだろ!」









色々な者に捕まりつつ

妙なものに遭遇しつつ

ようやく部室にたどり着いたのは、本来なら既に部活が始まっているはずの時間帯。



「ちーっす」



礼儀として挨拶をし顔を上げると、目の前には嫌な笑顔の仲間たち。





「かかれっ!」





その声を合図に、彼の視界は闇に閉ざされ、何か(乗り心地から自転車の後ろの荷台だと推測される)に座らされた。

聞こえてくるのは仲間たちの話し声と、風を切る音だけ。



「バネさんの苦しみをバネにチャリをこぐ…プ」

「ダビ…!」

「今つっこんだら岩場にダイブしちゃうのねー」

「…………」



確実にストレスをためつつそのまま走ること数分。

視覚が閉ざされているせいで鋭敏になっている鼻が、潮の臭いをかぎとった。



と同時に、風が止み自転車が止まる。



「じゃ、ここからはオレがエスコートするよ」



サエに手を取られ、ゆっくり歩き出した。

さくさくと足の裏に砂の感触を感じながら進み、目的地に着いたのであろう、目隠しは外されぬままその場に体育座りをさせられた。



(何やらされんだ?)



考えてみてもまったく予測がつかない。

どうしようかと思案した結果、変なところもものすごく豪胆な彼は体力の温存のために一眠りすることにした。





(まあ、何とかなるよなー…)

















「おーい、バネさん起きてよー」



(ん…?)



何だか聞き覚えのある少女の声に起こされて目を開くと、既に目隠しは外されていた。



「コラ宍戸ー!拉致られといて寝るなー!!」



「…氷帝の、マネージャー…?」



彼の目の前にいたのは、他校のマネージャーである最近知り合ったばかりの少女だった。

そして、その後ろには、見覚えのある顔。



「氷帝…。今日、交流試合の予定なんかあったか?」



「いやいや、こんな暗くなってからはさすがにねーわよ( ̄д ̄)」



それもそうか。



だが、納得はするものの、他の理由がさっぱり思い当たらない。





その瞬間、大きな音と共に夜空に大輪の華が開いた。





『誕生日おめでとうふたりともー!!』







何だか大勢の声も光と一緒に降ってきて

俺はこれ以上ないくらいに目を見開いた。







「クスクス。バネも宍戸も、さっぱりわからないって顔してるね」

「そりゃそうなのね」

「オレだって、初め聞いたときはびっくりしたもんなぁ」

「オレも…」





その後聞いた話を要約すると、こういうことらしい。

亮が氷帝のマネージャーとメールをしていた際に、俺と宍戸の誕生日が同じだということが発覚。

どうせなら一緒に、それもドハデに祝ってしまおうということで、それぞれが準備をしてこの千葉の海に集合したそうだ。











嬉しいことは嬉しい。



しかし



一介の中学生の誕生祝にここまで派手なのはどうなんだと突っ込みたくなる気持ちを



焼きたてのイカと一緒に飲み込んだ。































「よ、宍戸。誕生日おめでとさん」

「サンキュ。お前もな」

「しっかし…同じ誕生日がいるからって、わざわざ千葉まで来るとは思わなかったぜ。

しかも、花火まで打ち上がるしよ」

「オレも驚いた。校舎出た途端に黒い服のおっさんたちに目隠しで拉致られた瞬間は殺されると思ったしな」

「ははっ、んなことがあったのかよ」

「跡部んとこの人だったんだけどさ。

ま、あれだ。

常識のない奴らとつるんでると色々大変だよな」





違いない。





自分の仲間たちと、彼の仲間を思い浮かべて、





「しっしどー!ばーねさーん!

あたいをかまいなさいよー!ヾ( ̄∀ ̄)ノ」



聞こえた声に



二人顔を見合わせて笑った。























Happy Happy Birthday!





Ryo Shishido







Harukaze Kurobane































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メルマガで宍戸さんとバネさんの誕生日企画用に書き下ろしました。
この前後なんかを知りたい人はこちら参照で。











戻ってみちゃっ隊


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